相続での財産分与方法?相続順位や兄弟間での割合を弁護士が解説
「財産分与」と「遺産分割」とは
相続人が複数人いる場合、被相続人が死亡すると、生前に相続人が所有していた不動産や預貯金などの財産(遺産)は、いったん相続人との間で共有となります。そのため、共有となっている遺産を相続分に応じて分割し、遺産を各相続人の財産にする手続きが必要です。この手続きを「遺産分割」といいます。
他方、「財産分与」とは、離婚をした者の一方が、財産関係の清算や離婚後の扶養などのために、他方に対して財産の分与を請求することができる制度(民法(以下、法令名省略)768条)をいいます。
このように、「財産分与」は離婚の際に用いる制度であり、相続の際に「財産分与」を相続人に対して請求することはできません。「財産分与」も、「遺産分割」も、「共有財産を分ける」という点で似ているため、間違えやすいですが、「財産分与」という単語は、相続の際には用いられないため、注意が必要です。
もっとも、本記事では、単に「財産を分ける」という意味で、「財産分与」という単語を使用します。本来の正しい意味ではありませんので、ご注意ください。
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遺産(財産)はどのように分与する?
すでに述べた通り、相続人が1人である場合を除いて、遺産は一旦相続人間で共有となります。そのため、遺産を各相続人らが自己の財産とするためには、財産(遺産)分与を行う必要があります。その手続きが遺産分割です。
遺産分割は、第一に、遺言がある場合にはそれに従います。これを、指定分割(908条1項)といいます。
遺言による指定がなければ、第二に、共同相続人間での話し合いにより分割が行われます。これを協議分割(民法907条1項)といいます。そして、この話し合いを遺産分割協議といいます。
相続人間で揉めてしまうなどで協議が整わない場合には、遺産分割調停や、遺産分割審判(907条2項)を裁判所に申し立てることもできます。
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相続順位と財産の分与割合(相続分)
民法で定められた相続人を「法定相続人」といいます。法定相続人は、亡くなった人の配偶者と血族です。配偶者は、常に法定相続人となります(890条)が、子どもや親、兄弟には以下のような優先順位があります。
第1順位 子(887条1項)
第2順位 直系尊属(親や祖父母)(889条1項1号)
第3順位 兄弟姉妹(889条1項2号)
そのため、相続人に子がいる場合、直系尊属や兄弟姉妹は相続人になることができません。
遺言によって相続分(財産分与の割合)が指定されていない場合、民法上の規定により、各相続人が取得する遺産の割合が決まります。これを「法定相続分」といいます。民法に規定されている法定相続分は以下の通りです(900条参照)
相続人\他の相続人 |
配偶者 (常に相続人) |
子 (第一相続人) |
直系尊属 (第二相続人) |
兄弟姉妹 (第三相続人) |
配偶者 (常に相続人) |
|
1/2 |
2/3 |
3/4 |
子 (第一相続人) |
1/2 |
均等割 |
すべて子が相続 |
|
直系尊属 (第二相続人) |
1/3 |
― |
均等割 |
すべて直系尊属が相続 |
兄弟姉妹 (第三相続人) |
1/4 |
― |
― |
原則均等割 |
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よくある兄弟・親戚での相続トラブル
兄弟・親族間の遺産分割で起きやすいトラブルの具体例として、以下のようなものがあげられます。
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遺産分割の不公平感
・兄弟の中で、ある一人が不当に多くの遺産を受け取ったと感じる。
・生前に特定の兄弟だけが多くの贈与を受けていた場合、それが遺産分割に反映されないと不満が生じる。
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遺言書に対する疑義
・遺言書の内容が一部の相続人にとって不利であるため、その有効性が疑われる。
・複数の遺言書が存在し、それぞれの内容が異なる。
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相続財産の評価に関する争い
・不動産や株式などの相続財産の評価額について、相続人間で意見が分かれる。
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遺産の中に負債が含まれている場合
・相続財産に借金や負債が含まれているため、誰がその負債を引き受けるかで争いが生じる。
・相続放棄を巡って、相続人間で対立が発生する。
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代償分割に関する問題
・不動産を一人が相続し、他の相続人に金銭を支払う「代償分割」を行う際、支払い額や方法について合意が得られない。
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親族間の感情的対立
・遺産分割を巡る話し合いの中で、過去の家族間の感情的な対立が表面化し、冷静な話し合いが困難になる。
親の財産を兄弟姉妹で遺産相続する場合、相続人らの主張が対立して、なかなか話し合いがまとまらないケースがよくあります。遺産分割のトラブルを放置すると、将来的には子孫へ引き継がれてしまい、せっかくの相続財産が有効活用できない可能性もあります。兄弟姉妹・親戚の相続トラブルについての詳細は、「兄弟・親族間の遺産分割でもめている」の記事をご参照ください。
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遺産に家や土地が含まれる場合
不動産相続のトラブルは、ご家族間で意見が対立したり、複雑な状況が重なることで発生しやすく、非常に悩ましい問題です。
よくある相談内容をいくつかご紹介します。
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遺産分割協議が進まない
・相続人それぞれが不動産の価値を異なって評価するため、不動産の評価額で意見が合わない
・特定の相続人が、不動産を独占しようとし、他の相続人の同意が得られない
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不動産の処分方法で意見が合わない
・不動産を売却して現金化人と、不動産を保有したい人で意見が分かれる
・未成年者や認知症の相続人がおり、その人の法定代理人が決まるまで、処分ができない
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不動産が老朽化している、または借地権である
・不動産が老朽化しているおり、リフォーム費用を誰が負担するかについて意見が割れている
・借地権の不動産であり、借地契約の更新手続きや、更新料の負担について意見がまとまらない
不動産は分割が難しい財産であり、評価額も確定しにくいことから、相続の際に相続人間で意見が対立してしまうなど、トラブルが発生するケースが多いです。
不動産相続におけるトラブルの解決方法については、「3.不動産の相続トラブルを弁護士が解説」の記事をご参照ください。
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相続における財産分与は稲葉セントラル法律事務所にご相談ください
相続財産の分与については、利害が対立しやすく、当事者同士の話し合いでは感情的になり、解決できないケースが多いです。ご自身だけで対応しようと思うと、精神的にも負担が大きいかと思います。弁護士であれば、遺産分割協議や遺産分割(財産分与)の手続きをご相談者様に代わって行うことができます。また、遺産分割調停や訴訟などの法的手段をとることもできます。
さらに、相続が発生する前に弁護士にご相談いただければ、ご相談者様の事情や要望に応じて、将来トラブルを防止できるような作成する遺言の種類や遺言の内容をアドバイスさせていただくことも可能です。
相続財産の分与で困ったときや、相続人の間で争いが発生してしまったときは、是非一度弁護士に相談ください。

- 江戸川学園取手高校卒業
- 慶應義塾大学法学部政治学科卒業
- 青年海外協力隊員としてアフリカ・ジンバブエでボランティア活動
- 関東学院大学法科大学院卒業
- 平成24年 弁護士登録
- 平成28年7月より稲葉セントラル法律事務所を開設
- 令和4年4月より弁護士法人稲葉セントラル法律事務所を設立