財産額や相続人がわからない
目次
相続が起こったらまず何をすべき?相続財産や相続人を調査しましょう
皆さんは、ご両親の財産や親戚を正確に把握していますか?親が亡くなって、いざ相続手続きを行おうと思っても「遺言書がなく、親の相続財産はどこに何があって、いくらあるのかも全くわからない」「親戚と長らく連絡を取っておらず、誰が相続人か分からない」という方もいらっしゃると思います。
遺産分割を行うためには、遺産の範囲が確定している必要があります。故人の財産を正確に把握しないまま遺産分割をおこなった場合、遺産分割が終わった後に新たな財産が発覚したら、遺産分割をやり直さなければなりません。
また、遺産分割協議には相続人全員が参加し、遺産分割協議書には相続人全員の署名・押印が必要となります。そのため、だれが相続人になるかを調べずに遺産分割を行い、その後自分たちで把握していなかった相続人が突然現れた場合、相続人全員の同意が必要である遺産分割が無効になってしまうのです。この場合、再度遺産分割協議を実施する必要があり、時間がかかってしまうだけでなく、「自分の知らない間に遺産分割を勝手に決められた」など、相続人間の感情的な対立が発生し、場合によっては法的手続で遺産分割を行わなければならなくなります。
このようなことをできる限り避けるためにも、被相続人が亡くなったら、まずは「誰が相続人になるのか」「故人の財産はどれくらいあるのか」を調査すべきです。このような調査を、「相続人調査」「相続財産調査」といいます。
相続財産調査の進め方
相続財産調査は、遺産の内容を正確に把握するための手続きです。主に不動産、銀行口座、株式、投資信託などの金融資産、現金や貴金属・骨董品・車などの動産や権利、借金やローンなどの負債を調査します。大まかな相続財産調査の進め方は以下の通りです。
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被相続人の財産に関する情報収集
相続財産調査にあたって、まずは被相続人がどのような財産を持っていたかを知るために、以下のような方法で情報を収集します。
遺品整理:被相続人の自宅や保管場所を整理し、重要な書類や財産に関する手がかりを探します。通帳、証券、保険証書、不動産の権利証、貸金庫の鍵などがあれば確認します。
郵便物の確認:被相続人宛てに届く郵便物を確認します。銀行や証券会社、保険会社からの通知や、税金の請求書などから財産や負債の情報が得られる場合があります。
過去の税申告書の確認:過去の確定申告書を確認することで、所得の状況や所有している資産を把握できます。
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金融資産の調査
被相続人の預貯金口座などが見つかった場合、銀行などの各種金融機関に問い合わせを行い、詳細に調査します。
銀行口座の確認:被相続人が取引していた銀行の口座を確認し、預貯金の残高を調べます。通帳やキャッシュカードを基に、全ての銀行に問い合わせます。
証券会社の口座確認:株式、投資信託、債券などの金融商品を保有していたかどうかを調べます。取引明細や証券口座の確認が必要です。
保険契約の確認:生命保険や損害保険などの契約がある場合、その保険金や解約返戻金を確認します。保険証書や保険会社からの通知が手がかりになります。
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不動産の調査
被相続人の財産に不動産の所有状況を確認し、必要な書類を取得します。
不動産登記簿の取得:被相続人が所有していた土地や建物の登記簿謄本を法務局で取得し、所有者の確認を行います。不動産の評価額も調べます。
固定資産税納税通知書の確認:被相続人が支払っていた固定資産税の納税通知書を確認することで、所有している不動産を把握できます。
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動産・その他の資産の調査
動産やその他の資産についても、可能な限り調査します。
現金、貴金属、骨董品などの確認:自宅や保管場所にある現金、貴金属、骨董品などの価値を確認します。価値の高いものは専門家に鑑定を依頼することもあります。
車両の確認:車やバイクなどの登録証を確認し、資産として計上します。価値が高い場合は、売却も検討します。
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負債の調査
被相続人の負債を把握し、相続財産から差し引く必要があります。
借金・ローンの確認:借入契約書やクレジットカードの明細を確認し、残債を把握します。
保証人の確認:被相続人が他人の借金の保証人になっていた場合、それも負債として確認します。
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財産目録の作成
以上の調査結果を基に、相続財産の全体像を把握し、財産目録を作成します。この目録は遺産分割協議や相続税申告に必要な資料となります。
相続財産調査を死後2カ月以内に行うべき理由
相続財産調査により、被相続人名義の負債(ローンや保証など)が多額であり、預貯金などの積極財産よりも、負債の方が多いことが判明するケースがあります。
このような場合、相続により多額の負債を負わないために、相続放棄や限定承認をすることが考えられます。しかし、相続放棄や限定承認亡くなったことを知ってから3ヶ月以内に行う必要があります。
相続財産調査をしなければ、相続したらマイナスになるのかどうかがわからないため、相続放棄などを検討することもなく漫然と相続してしまう可能性があります。そのため、相続財産調査は相続発生後、早急に実施すべきです。
相続人調査の進め方
相続人調査とは、相続が発生した際に、法定相続人が誰であるかを戸籍で確認して確定・証明することです。相続人調査は、遺産分割協議や遺産の名義変更手続きを行うために必要になります。大まかな相続人調査の具体的な進め方は、以下の通りです。
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被相続人の戸籍謄本の取得
最初に、被相続人の戸籍関係の書類を集めます。これにより、被相続人の家族関係や相続人の範囲を明らかにします。
出生から死亡までの戸籍謄本を取得
被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)を取得します。これにより、被相続人の配偶者や子供、兄弟姉妹など、相続人となる人物を特定します。
戸籍謄本は、通常、被相続人が本籍を置いていた市区町村の役所で取得します。被相続人が過去に転籍している場合、転籍前の本籍地の役所にも申請して、戸籍をすべて揃える必要があります。
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法定相続人の確認
戸籍謄本を基に、法定相続人を確認します。法定相続人は、民法で定められており、被相続人との親族関係に応じて次のように決まります。
第一順位:子供(直系卑属)
被相続人に子供がいる場合、その子供が法定相続人となります。子供が先に亡くなっている場合は、その子供(被相続人の孫)が相続人になります(代襲相続)。
第二順位:直系尊属(親、祖父母など)
被相続人に子供がいない場合、親や祖父母が法定相続人となります。
第三順位:兄弟姉妹
被相続人に子供も直系尊属もいない場合、兄弟姉妹が法定相続人となります。兄弟姉妹が亡くなっている場合、その子供(甥、姪)が代襲相続人となります。
配偶者
配偶者は常に法定相続人となります。配偶者は、上記の第一順位から第三順位のいずれかと共同で相続します。
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追加の戸籍謄本の取得(必要に応じて)
特定された法定相続人がさらに代襲相続や他の家族関係を持つ場合、その相続人に関する戸籍謄本も取得します。これにより、全ての法定相続人が確実に確認することができます。
代襲相続の確認
子供や兄弟姉妹が先に亡くなっている場合、その子供や孫が代襲相続することがあります。代襲相続がある場合は、その人たちの戸籍謄本も確認します。
直系尊属(親や祖父母)の確認
被相続人に直系尊属がいる場合、その戸籍謄本も取得します。
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法定相続情報一覧図の作成
集めた戸籍情報を基に、法定相続情報一覧図(家系図のようなもの)を作成します。これにより、相続人が一目でわかるようになります。この一覧図は、相続手続きの際に利用できます。
- 相続人に関する証明書の取得(必要に応じて)
相続手続きを進める際に、相続人であることを証明するために、相続人の戸籍謄本や住民票を取得する場合があります。
住民票の取得
相続手続きの際には、相続人の現在の住民票を提出する必要があることが多いです。住民票には、現在の住所や本籍地が記載されています。
印鑑証明書の取得
遺産分割協議書などに相続人全員が署名押印する際には、印鑑証明書が必要となります。
相続財産や相続人がわからないことで起こるトラブル
相続財産や相続人が不明確な場合、さまざまなトラブルが発生する可能性があります。これらの問題が未解決のままでは、相続手続きが遅延し、相続人間の関係が悪化することもあります。
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遺産分割協議が進まない
相続人が特定できない場合
相続人全員が確定していないと、遺産分割協議を始めることができません。特定の相続人が見つからない、または確認できない場合、協議が進まず、遺産分割が遅れてしまいます。
代襲相続人の存在が見逃される場合
子供や兄弟姉妹がすでに亡くなっていて、代襲相続人(子供や甥・姪)がいることに気付かないと、協議に必要な相続人全員が揃わないことになります。これも協議の進行を妨げる要因となります。
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不公平な遺産分割が行われる
財産の全貌が把握できない場合
相続財産の全てが把握されていない場合、不動産や金融資産、負債などが見落とされ、一部の相続人が不利になることがあります。特定の相続人だけが隠された財産を知っていて、不公平な分割が行われるリスクもあります。
負債の存在が発覚しない場合
被相続人の負債が後から発覚すると、遺産を受け取った相続人が予期せぬ借金を負うことになります。これにより、相続財産が実際にはプラスではなく、マイナスだったことが判明するケースもあります。
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相続手続きの遅延・無効
書類の不備や誤り
相続人や財産の調査が不十分で、必要な戸籍や財産関連の書類が揃っていないと、登記や相続税申告が遅れたり、無効になったりする可能性があります。
遺言書の有効性に関する紛争
被相続人の財産や相続人が完全に把握されていない場合、遺言書の内容が十分に反映されず、相続人間で遺言の有効性を巡る紛争が起こることがあります。
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相続税の過不足
相続税申告に影響が出る
相続財産を正確に把握できていないと、相続税の申告額に過不足が生じる可能性があります。申告漏れがあると、後から追加で税金を支払うことになり、延滞税や過少申告加算税が課せられるリスクもあります。
申告期限に間に合わない
財産や相続人の調査に時間がかかり、相続税の申告期限(相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内)に間に合わない場合、税務署からペナルティが課せられることがあります。
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相続人間の紛争・関係悪化
相続人間の不信感
財産や相続人が不明確な状態で相続手続きを進めようとすると、相続人間で不信感が生じやすくなります。特に、一部の相続人だけが特定の情報を握っている場合、他の相続人との間で深刻な対立が生じることがあります。
裁判沙汰になる可能性
遺産分割協議がまとまらず、相続人間で対立が激化すると、家庭裁判所での調停や訴訟に発展することがあります。これにより、手続きがさらに長期化し、相続人間の関係が悪化する恐れがあります。
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未払いの相続債務による法的問題
相続人が相続財産を受け取った後に、被相続人の未払いの債務が発覚すると、相続人がその債務を負担することになります。これにより、予想外の負債を引き継ぐリスクがあります。
相続財産・相続人の調査を専門家に依頼すべき理由
相続財産や相続人の調査を専門家に依頼するメリットは、手続きを漏れなく行うことができ、スムーズに相続の実現に役立てることができることです。
相続人調査には、多数の戸籍謄本・抄本を集め、複雑な続柄を解明する作業が必要となるため、手間がかかる作業で、戸籍の読み方が難しい場合もあります。また、郵送で戸籍を取り寄せる場合は、手数料を払うための小為替を用意するなど、面倒な手続きとなります。専門家に依頼すれば、自分が戸籍を取りに行く時間に取りにいってもらい、相続人調査まで専門家が実施してくれます。
また、預金、不動産、有価証券など、様々な種類の相続財産を漏れなく洗い出すには、専門的な知識と経験が必要です。さらに、相続人や相続財産の状況を踏まえた専門家の相続税に関するアドバイスを受けることで、節税対策を講じることができます。
弁護士による相続財産・相続人調査サポート
相続財産調査・相続人調査は、弁護士でない他の士業の先生に依頼することも可能です。しかし、弁護士であれば職権で戸籍謄本を取り寄せることができるため、相続人に代わって相続人調査を行うことができます。また、弁護士には特別な権限があり、公的書類や金融機関などから開示請求を行うことができるため、個人で調査するよりもスムーズかつ正確な情報収集が可能です。
さらに、相続で揉めるポイントを把握しているため、その後、早期にトラブルなく遺産分割を解決に導くことも可能です。相続人調査と併せて、これまで交流のない相続人と遺産分割協議を行うことに不安がある場合も、弁護士に交渉を依頼することができます。
このように、弁護士であれば、相続財産調査や相続人調査だけではなく、その先の相続手続きを見越したアドバイスを行うことができます。
相続手続きは一人の専門家にワンストップで相談できる方が便利です。そのため、相続人調査・相続財産調査をご希望の方は、弁護士に依頼することをおすすめします。