親戚から遺産の取り分を指定されました。取り分(相続分)は妥当ですか?
ご相談例
例えば、父親が亡くなり、相続人が子A、B、Cの三人で、遺言はなく、父親の遺産は自宅(土地・建物、評価額4000万円)と預貯金(2000万円)であるケースを想定します。
このケースにおいて、長男のAが「自分は父親の生前から自分の家族と一緒に同居していたため、このまま自宅に住み続けたい。そのため、Aが自宅を相続し、BとCは預貯金1000万円ずつを相続してほしい」と、遺産の取り分を指定したとします。この場合、BとCは、遺産の1/6ずつしか貰えません。この遺産の取り分は妥当なのでしょうか?以下解説します。
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適切な相続分(取り分)とはどのくらい?
相続分とは、共同相続人の相続すべき割合をいいます。相続分については、被相続人の遺言がある場合と無い場合によって変わってきます。
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遺言がある場合
まず、遺言がある場合にはそれに従います(指定相続分、民法902条1項)。
例えば、父親が死亡し、子供3人が相続人である場合、「財産を長男にすべて相続させる」という遺言がある場合には、特段の事情が無い限り、長男が遺産を単独で承継することとなります。(最判平成3年4月19日 民集第45巻4号477頁[1])
遺言に自分の名前が無い、遺言の内容に納得がいかない場合の対処方法については、こちらをご参照下さい.
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遺言が無い場合
遺言によって相続分が指定されていない場合、民法上の規定により、各相続人が取得する遺産の割合が決まります。これを「法定相続分」といいます。民法に規定されている法定相続分は以下の通りです(民法(以下、法令名省略)900条参照)
相続人\他の相続人 |
配偶者 (常に相続人) |
子 (第一相続人) |
直系尊属 (第二相続人) |
兄弟姉妹 (第三相続人) |
配偶者 (常に相続人) |
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1/2 |
2/3 |
3/4 |
子 (第一相続人) |
1/2 |
均等割 |
すべて子が相続 |
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直系尊属 (第二相続人) |
1/3 |
― |
均等割 |
すべて直系尊属が相続 |
兄弟姉妹 (第三相続人) |
1/4 |
― |
― |
原則均等割 |
例えば、1の場合のように相続人が子3人の場合は、法定相続分は均等なので、1/3ずつとなります。相続人が配偶者と子供3人の場合のそれぞれの法定相続分は、配偶者が1/2で、子は1/6ずつです。
したがって、1の場合、BとCが遺産の1/6しか取り分が無いのは、妥当でないといえます。
3-1.本当はもっと取り分が多いケース
・被相続人である親の家業に従事して、財産を増やした
・被相続人である夫の事業に、妻が無償で従事していた
・親の介護をして介護費用の支出を抑えた
このような場合には、「寄与分」(904条の2)が認められ、自分の遺産の取り分が、法定相続分より多くなる可能性があります。
寄与分とは、相続人の中で、被相続人の財産形成または維持に特別の寄与をした者に、法定相続分以上の財産を取得させ、実質的な公平を図る制度です。寄与分が認められるためには、相続人の被相続人に対する貢献が「特別の寄与」である必要があり、対価を受け取っていないことあるいはそれに近いことや、被相続人と相続人の身分関係(夫婦や親)から通常期待される程度を超える行為であることが考慮されます。
寄与分が認められる場合の算定例については、以下の通りです。
例:被相続人の遺産が1億円で、相続人が兄弟2人であり、兄が家業を手伝って、被相続人の財産形成に2000万円の寄与があった場合、
見なし遺産 = 遺産:1億円-2000万円(兄の寄与分)=8000万円
兄の相続分:8000万円 × 1/2(法定相続分) + 2000万円 = 6000万円
弟の相続分:8000万円 × 1/2 (法定相続分) =4000万円
寄与分が認められるか否かは、事案によって異なります。また、「特別な寄与」に当たるか否かについては、法的な判断が必要です。そのため、寄与分を主張したい場合や、相続人が寄与分を主張している場合には、一度弁護士にご相談下さい。
参考記事:K.特別受益と寄与分
3-2.財産隠しが行われていたケース
相続財産隠しとは、相続人が意図的に相続財産の存在や価値を隠蔽する行為を指します。通帳を他の相続人に見せない場合や、無断で口座からお金を引き出す行為が相続財産隠しに該当すると考えられます。
親戚から遺産の取り分を指定され、その通りに遺産分割を行ったが、実は財産が隠されていた場合、遺産分割協議をやり直すことや、財産を隠した人に対して不当利得返還請求を行うことが考えられます。
財産隠しを防ぐためには、遺産分割協議の前に、相続財産の調査を行うことが重要です。弁護士は、お手元にある資料の確認や、弁護士会照会(弁護士法第23条の2)などを通じて、遺産の調査を行います。その結果、実際に遺産隠しが行われたのかどうか、事実を正確に把握できる可能性が高まるでしょう。
相続人ご本人では調査が難しい事柄でも、弁護士にご依頼いただければ詳しく調べられることが多くあります。調査に必要な対応は、弁護士が全面的に代行いたしますので、労力の大幅な軽減にもつながります。
納得できる形で遺産隠しの問題を解決したいとお考えのときは、弁護士に遺産の調査をご依頼いただくことがおすすめです。
3-3.言われていた取り分が少なかった
言われていた取り分通りに遺産分割を行ったが、自分の取り分が少なかった場合、遺留分侵害請求ができる可能性があります。
「遺留分」とは、相続に際して、被相続人の財産のうち、法律上一定の相続人に承継されるべき最低限の割合のことです。
被相続人は、原則として、遺言や贈与によって、自由にその財産を承継させることができますが、遺留分はこれに対して一定の制限効果を持ちます。遺留分を有する者は、原則として、被相続人の兄弟姉妹以外の相続人(配偶者・子・孫などの直系尊属)(1042条1項柱書)です。
遺留分を有する相続人(これを遺留分権利者と呼びます)が相続によって得た額が、その遺留分に達しない場合、遺言により財産を譲り受けたもの(受遺者)や、被相続人から財産の贈与を受けたもの(受贈者)に対して、遺留分侵害請求権(1046条)が成立し、本来もらえるはずだった財産に相当する金銭の支払いを請求することができます。
遺留分侵害請求権は、侵害があれば何もしなくても当然にもらえる、というわけではなく、相手方に請求して初めて発生する権利です。
遺留分侵害額請求をしたい時は、まずは正しい遺留分の額を把握する必要がありますが、遺留分の計算方法は難しいことから、弁護士にご相談することをお勧めします。遺留分や遺留分減殺請求についての詳細は、「J.遺留分と遺留分減殺請求について」をご参照下さい。
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遺産の取り分を増やすためにできること
3-1で解説したように、仮に寄与分が認められる場合には、自分の遺産の取り分が多くなります。寄与分は相続開始の時から10年経過した後にする遺産の分割には適用されません(904条の3柱書本文)。そのため、遺産分割がまとまらず、放置している場合には、早めに弁護士にご相談ください。
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稲葉セントラル法律事務所にご相談ください
遺産の取り分は、遺言が無い場合には民法の規定が適用されます。法定相続分より少ない取り分で遺産分割を行った後に、遺産分割をやり直すのは難しく、円滑に進まないことも考えられます。
弁護士にご相談いただければ、ご相談者様の正確な遺産の取り分をアドバイスさせていただきます。
そのため、自分の遺産の取り分に少しでも疑問がある場合には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
[1] 裁判所HP https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/445/052445_hanrei.pdf

- 江戸川学園取手高校卒業
- 慶應義塾大学法学部政治学科卒業
- 青年海外協力隊員としてアフリカ・ジンバブエでボランティア活動
- 関東学院大学法科大学院卒業
- 平成24年 弁護士登録
- 平成28年7月より稲葉セントラル法律事務所を開設
- 令和4年4月より弁護士法人稲葉セントラル法律事務所を設立