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遺留分減殺請求とは?侵害額請求との違いを解説

  1. 遺留分減殺請求とは

    • 1)遺留分減殺請求(侵害額請求)の意義

「遺留分」とは、相続に際して、被相続人の財産のうち、法律上一定の相続人に承継されるべき最低限の取り分を確保する制度です(現民法1042条)。兄弟姉妹以外の法定相続人が遺留分に相当する財産を受け取れていない場合は、その分を請求する権利があります。この請求のことを「遺留分侵害額請求」または「遺留分減殺請求」と言います。

遺留分減殺請求とは,遺留分を侵害された者が、贈与又は遺贈を受けた者に対し,遺留分侵害の限度で贈与又は遺贈された物件の返還を請求することです[1]

遺留分侵害額請求とは、遺留分を侵害された者が、請求贈与又は遺贈を受けた者に対し、その侵害額に相当する金銭の支払を請求することです[2](現民法1046条)

遺留分侵害額請求は、民法改正により201971から施行された制度であり、同日以降に生じた相続について用いることになります。他方、2019630日までに生じた相続については改正前の民法に則り遺留分減殺請求という制度を使うことになります。

  • 2)法改正(20197月施行)前後の制度比較

  • ①請求の対象

遺留分減殺請求の場合、「遺産の現物」の返還を請求します。例えば減殺対象となった財産が不動産である場合、遺留分減殺請求が認められると「不動産そのもの」が返還されるので、請求者と被請求者との間でその不動産を共有する状態となることがあります。しかし、訴訟までするような間柄となった当事者間において不動産を共有で管理していくことは難しく、その後共有物分割訴訟という別の裁判で争うことが少なくありませんでした。

これに対し、遺留分侵害額請求の場合、遺留分侵害額に相当する「金銭」の支払いを請求します。不動産が不公平に贈与されていたケースであっても、不動産の価値に応じた金銭を支払うことで解決できるようになりました。

  • ②特別受益の範囲

遺留分減殺請求(旧法)では、法定相続人への特別受益にあたる生前贈与は全て(時期を問わず)、遺留分を算定するための財産の価額に算入できました。しかし、全て対象となると、20年前や30年前などの古い生前贈与まで持ち出されて、トラブルになるケースがありました。

そのため、遺留分侵害額請求(現法)で基礎財産に加算する特別受益は、「相続開始前10年以内」に限定されました。

  1. 遺留分減殺請求の対象

 以下では、2019630日までに相続が生じた方向けに、旧法の遺留分減殺請求について解説します。201971日以降に生じた相続に関しては、遺留分減殺請求をすることはできません。遺留分侵害額請求については、「遺留分の基礎知識・遺留分侵害額の計算方法と具体例」という記事をご参照ください。

  • 1)請求できる相手(受贈者・受遺者)

 減殺請求の対象は、遺贈および相続開始1年前までの贈与(およびそれ以前の特別受益)と、「当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って」なした贈与(旧民法(以下、旧民法の場合法令名省略)1030条後段)です。そのため、減殺請求の相手方は、これらの受遺者ないし受贈者となります。

  • 2)減殺の順序・割合(遺贈から贈与への順序)

 減殺対象が複数あるときは、まず遺贈、次いで贈与が減殺されます(1033条)。

遺贈が複数のときは、遺留分権利者のほうで減殺の対象となる財産を選ぶことはできず、遺贈全体について価額の割合に応じて減殺されます(1034条)。ただし、遺贈者が遺言に別段の意思を表示していた時は、それに従います。(同条ただし書)。

 贈与が複数の時は、新しい贈与から順に減殺されます(1035条)。ここでいう先後とは、贈与契約の先後です。ただし、死因贈与は遺贈に近い(554条参照)ことから、贈与の中で先に減殺すべきであると解釈されています(東京高判平成1238日判決、判タ1039294)。

 そして、請求権者が複数のときは、各自遺留分侵害額を保全するのに必要な限りで減殺請求ができると解されるから(1031条)、侵害額の割合に応じて減殺請求することになります。

  1. 遺留分減殺請求の方法

    • 1)減殺請求をするためには

 遺留分減殺請求権を行使するためには、訴訟で行う必要はなく、相手方に対する意思表示、つまり、「遺留分を侵害しているので、侵害している行為(贈与や遺贈)について減殺します」という意思を相手方に表示すれば足りる、とされています(最高裁昭和41年7月14日判決)。直接対面で請求したり、電話で伝えることも可能ですが、文書やメールなど、こちらが請求した事実が残る方法で行うのが望ましいです。

特に相手と疎遠であったり、あまり関係がよくなかったりするなど、後で争いに発展する可能性がある場合や、時効期限が迫っている場合は、内容証明郵便を利用するとよいでしょう。内容証明郵便を利用すれば、郵便局によって遺留分減殺額請求権を行使したことを証明してもらえるため、有効な証拠として活用できます。

  • 2)裁判所での調停・訴訟の流れ

 相手が支払い義務を認めない、支払うべき遺留分額についての意見が一致しない、など、交渉がまとまりそうになければ、家庭裁判所に遺留分減殺による物件返還請求調停を申し立てることができます。(参考:裁判所HP 「遺留分減殺による物件返還請求調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_13/index.html )

調停手続きとは、裁判所が間に入って、当事者同士で話し合いをする手続きです。裁判官の他、調停委員が間に入ってくれるため、平等、公平な解決が期待できます。

調停手続きを経ても、話がまとまらなかった場合は、地方裁判所に訴訟提起をします。

訴訟の中で遺留分減殺請求権を行為するわけではなく、遺留分減殺請求権の行使が終わったことを前提として、それにより生じた権利を行使する段階で訴訟を行います。

具体的には、所有権などの権利の確認を求める訴訟や、不動産の明け渡しや登記を求める訴訟、金銭の支払を求める訴訟です。共有関係が生じた状況になっていれば,共有物分割訴訟を申し立てることもあります。

なお、「身分関係の形成又は存否の確認」(人事訴訟法2条)ではないので、人事訴訟ではありません。(原則として)地方裁判所に申し立てる一般の訴訟です。

訴訟の場合は、当事者間の話し合いではなく、裁判官が双方の主張をもとに判決を下します。

  1. 減殺請求の注意点

遺留分減殺請求には時効・除斥期間が定められています。

 「減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始を知った時及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年、相続開始時から10年(1042条)と規定されています(前者が消滅時効、後者が除斥期間)。

 そのため、遺留分減殺請求権は、被相続人の死亡と遺留分を侵害する生前贈与や遺言書による贈与(相続させる旨の遺言も同様)を知った時から1年間で行使しなければなりません。

 また、知らない場合でも、減殺請求権は相続開始から10年で消滅してしまいます。そのため、遺留分の侵害が発覚した場合には、すぐに弁護士にご相談ください。

  1. ケーススタディ:相続財産の種類別対応

改正前の遺留分制度の枠組みは、遺留分を侵害する遺贈・贈与を「減殺」して、相続財産ないし遺留分権利者が保持すべき財産を回復するというものです。そして、既に述べたように、通説・判例によれば、遺留分減殺の意思表示をすると、減殺に服する範囲で遺贈・贈与は失効し、遺留分権利者が減殺請求の対象となった物権的支配権を回復するとされています。

そのため、遺留分権利者は、財産の現物返還を求めることになります。

 

<事例① 相続財産が不動産の場合>

被相続人はAで、Aの相続人は、子のXYのみである。Aは唯一の遺産である自宅マンションをYに相続させるとの公正証書遺言を残していた。

 本件において、XYに対して遺留分減殺請求をすると、目的物であるマンションの返還義務(不動産等については遺留分権利者と受遺者との間で共有となり共有持分の登記義務)が発生します。

他方、この遺留分減殺請求に対し、受遺者であるYは価額弁償の意思表示をすることができます。受遺者が価額弁償の意思表示をした上で、遺留分権利者に対し、「価額弁償金の現実の履行」または「履行の提供」をすれば、受遺者は遺留分権利者に対する目的物の返還や登記義務を免れることができます。

 

<事例② 相続財産が株式の場合>

被相続人はAで、Aの相続人は、子のXYのみである。Aは甲社の株を200株所有していたが、株式をYに相続させるとの公正証書遺言を残していた。

本件において、XYに対して遺留分減殺請求権を行使すると、Yが単独取得していた株式について、Xが共有持分を取得するため、本件株式はXYの共有となります(現民法264条、準共有)。

株式の共有者は、権利行使者を1人定めて会社に通知しなければ、当該株式についての権利を行使することができません(会社法106条1項)。

 

  1. 遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)は稲葉セントラル法律事務所にご相談ください

遺留分侵害請求(遺留分侵害請求)を行うにあたって、侵害されている遺留分額を計算するためには、専門的知識が必要です。また、遺留侵害請求(遺留分減殺請求)を主張するためには、遺留の侵害があったことを裏付ける証拠も必要です。そのため、適切に権利主張するためにも、遺留分の侵害でお困りの方は、是非弁護士にご相談ください。

  1. 参考文献

・塩見佳男『詳解 相続法(第2版)』(弘文堂,2022

・内田 貴『民法Ⅳ(補訂版)』(東京大学出版会,2007

[1] 裁判所HP 「遺留分減殺による物件返還請求調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_07_13/index.html 

[2] 裁判所HP「遺留分侵害額の請求調停」https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/lkazi_07_26/index.html 

この記事の執筆者
執筆者画像
弁護士法人 稲葉セントラル法律事務所 代表弁護士 稲葉治久
保有資格 弁護士
専門分野 一般民事 ・交通事故 ・相続 ・離婚 ・各種損害賠償 ・成年後見 ・債務整理 ・不動産取引 ・学校問題 ・民事信託 ・建築紛争 ・刑事 ・その他 ・企業法務
経歴
  • 江戸川学園取手高校卒業
  • 慶應義塾大学法学部政治学科卒業
  • 青年海外協力隊員としてアフリカ・ジンバブエでボランティア活動
  • 関東学院大学法科大学院卒業
  • 平成24年 弁護士登録
  • 平成28年7月より稲葉セントラル法律事務所を開設
  • 令和4年4月より弁護士法人稲葉セントラル法律事務所を設立
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