遺言書の最適な書き方を知りたい
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目次
遺言書を書く前に知っておきたい基本的な知識
遺言は、自分の財産を誰にどのように残したいか、自分の意思や想いを確実に伝えるための手段です。遺言書を作成すると、相続争いの予防や、相続人以外の者に遺産を渡すことができます。
民法上、一般的な遺言の方式は、①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言の3つあり、それぞれ作成方法や保存方法が異なります。この中で実務上よく用いられるのが、①自筆証書遺言と、②公正証書遺言です。
遺言書は、被相続人ごとに作成する必要があります。本人が自筆で作成することもできますが、形式面に不備があると無効になってしまう場合があるので注意が必要です。また、財産に関する事項以外にも遺言で定めることができますが、遺言することができる事項は、限定されています。
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自筆証書遺言の正しい書き方
自筆証書遺言は、いつでも好きな時に自分で手書きをして作成することのできる最も簡単な遺言書です。費用もかかりませんし、自分一人で作成することができます。
しかし、正しい書式で書かないと無効となる場合があるため、注意が必要です。
自筆証書遺言を法的に効力のある遺言とするためには、「全文自書、日付、署名押印」の3つの要件を満たす必要があります(民法(以下法令名省略)968条1項)。
その3つの要件について詳しく解説します。
*参考*
(自筆証書遺言)
第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。
2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第978条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。
3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
⑴遺言書の全文が遺言者の「自書」によるものであること
自筆証書遺言は、必ず遺言者自らが全文手書きで作成(自書)する必要があります。代筆やタイプライターによる入力、また、たとえ本人のものであっても音声や映像なども全て無効となります。もっとも、判例によれば、遺言者の手指が震えたりするため、他人が添え手をして遺言者による筆記を補助したような場合については、以下のような場合であれば、当該遺言は無効にならないとされています。
運筆について他人の添え手による補助を受けてなされた自筆証書遺言は、⑴遺言者が証書作成時に自書能力を有し、⑵他人の添え手が遺言者の手を用紙の正しい位置に導くにとどまるか、又は支えを貸したに過ぎないものであり、かつ、⑶添え手をした者の意思が介入した形跡のないことが筆跡の上で確認できる場合には、「自書」の要件を満たし、有効である。(最判昭和62.10.8民集41・7.1471)[1]
また、カーボン複写による自筆証書遺言も、「自書」(968条1項)の要件を満たします(最判平成5.10.19[2])。
⑵「日付」が記入されていること
遺言の作成日付は、日付が特定できるよう正確に記載します。
例)「令和3年3月吉日」は不可(具体的な日付が特定できないため)
⑶氏名の自書・押印があること
遺言成立の年月日を書いたら、遺言者の住所と氏名を書いて押印します。その際、夫婦共同など連名の署名はできません(民法975条)。
また、押印が要求されている理由は、遺言者の真意を確保するためなので、必ずしも実印である必要はなく、認印や指印で足ります(最判平元.2.16)。
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財産の記載で失敗しないための遺産目録の作成方法
財産目録とは、遺言者の財産を判別できるようにまとめた一覧表です。現預金などの資産だけでなく、借入金などの負債も記入することで、相続財産の内容を明確にできます。なお、遺言を作成する際に、財産目録を作成する義務はありません。多数の財産について相続人を指定する場合には、本文に「別紙財産目録1記載の財産を長男に相続させる」などと記載し、財産目録を添付することが簡便です。実務上は、相続の目的となる財産が多数ある場合に財産目録が作成されています。
以前は財産目録も含めて全文を自筆することが要件とされていましたが、2019年1月から目録については、自書が求められなくなりました。
書式は自由であり、遺言者本人がパソコンで作成することもでき、遺言者以外の人が作成することも認められます。また、書面を改めて作成することも特に求められませんので、土地について登記事項証明書を財産目録として添付することや、預貯金について通帳の写しを添付することも可能です。
財産目録については、「毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあってはその両面)」に署名押印をしなければならないものと定められています。自書によらない記載が用紙の片面のみにあれば、その面または裏面の1か所に署名押印が必要ですが、自書によらない記載が両面にある財産目録については、両面にそれぞれ署名押印をすることが求められます。押印について特別な定めはありませんし、本文で用いる印鑑とは異なる印鑑を使っても問題ありません。
財産目録の記入方法については、こちらの法務省のサイト[3]もご参照ください。
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公正証書遺言のメリットと手続きの流れ
公正証書遺言は、公証人の関与のもとで作成する遺言です。作成の際には、公証人のほか、2名以上の証人の立ち合いが必要です。
原本が公証役場で保管されることから、偽造や変造のおそれも回避することができるため、無効になるリスクが最も低い遺言方法です。また、法律の専門家である公証人が関与することによって、方式の不備や内容が不明確になることを避けることができるというメリットもあります。
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遺言執行者の選任が重要な理由
遺言者は、遺言により、遺言執行者を指定することができます。遺言執行者は、遺言の内容を実現することを職務として、指定又は選任されたものをいいます。
遺言執行者を選任することはとても重要です。
遺言執行者を選任しておくことはとても重要です。なぜなら、相続人同士が利害の対立からトラブルになるケースが多いからです。そのようなときに遺言執行者を選任すれば、相続人による勝手な遺産の処分を防ぐことができるので、利害関係の対立によるトラブルを減らすことができ相続の手続きをスムーズに進めることができるようになります。少しでもトラブルが発生しそうだと感じるのであれば遺言執行者を選任することを推奨します。
遺言執行者には親族や相続人を指定することもできますが、利害関係人である相続人が遺言執行者に就任すると、遺言執行者が不正に遺産を取得するなど、相続人間でのトラブルの原因になる危険があります。
そのため、できる限り遺言執行者は、遺言や相続に詳しい信頼できる弁護士に依頼することをお勧めいたします。
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遺言書作成に不安がある方は弁護士にご相談ください
遺言書作成を弁護士に依頼するメリットの1つ目は、無効になるリスクを大きく下げられることです。
自分で遺言書を作った場合、要件を満たせず無効となるおそれがあります。特に自筆証書遺言では、形式面での不備により、遺言書が無効となるリスクが小さくありません。たとえ方式には問題がなかったとしても、遺言書に納得しない相続人などから「遺言能力がなかった」などと主張され、無効となるおそれもあります。弁護士にサポートを依頼することで、遺言書が無効となるリスクを最小限に抑えることが可能となります
メリットの2つ目は、相続トラブルを予防するためのアドバイスを受けられることです。法律の知識がなく遺言書を作成すると、相続発生後のトラブルの原因となる可能性があります。
たとえば、子供が2人いたが、そのうちの長男にだけ「全財産を相続させる」との遺言をした場合、次男の遺留分を侵害してしまうこととなります。その場合、遺留分を巡って争いが発生してしまう原因となります。
3つ目は、遺言執行までを一貫して依頼できることです。
先ほど解説したように、遺言書をスムーズに実現するには、遺言執行者の選任が不可欠です。遺言書の作成サポートを弁護士に依頼することで、遺言執行までを一貫して依頼することが可能となります。
弁護士に執行を依頼することで家族の負担が軽減されるほか、遺言書の内容を確実に実現することが可能となります。
遺言書の作成をお考えの方は、是非一度弁護士にご相談ください。
[1] https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=55195
[2] https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=73150
[3]法務局「3.自筆証書遺言の様式」5頁 https://houmukyoku.moj.go.jp/gifu/content/001321184.pdf